憲法第25条生存権 近所の話

 私が小学生の冬休みのある日、雪だるまを作った。大きな雪だるま。置いておいたら近所のおっさんが来て、坂に雪だるまを蹴落とした。

 その近所のおっさんは、1年中オーバーみたいな服を着て、前かがみになって独り言を言いながら歩く。
 小学生から見たら怪物みたいなおっさんであった。近所の大人から見ても怪物みたいに見えていただろう。

 そのおっさんには兄さんがいた。マーケットでよく合うことがあった。口を聞いたことは無い。80歳くらいかもしれない。
 レジで会計を済ませた後、体が辛そうに財布におつりを入れ、買ったものを袋に詰めていた。

 最近、その兄さんの姿を見かけなくなった。晩酌しながら母に聞いてみると、昨年暮れに亡くなったと言う。
 あっけない終わりであったと思う。つい最近まで見かけていたと思っていたのに。

 弟のおっさんは、今でも怖い感じがする。
 一人で道を歩きながらぶつくさと言い、時には一人で怒鳴る。

 風呂なんか無い家だという。数年前まで時々ドラム缶で風呂を沸かしていたらしいが、今ではドラム缶に穴が開いて風呂にも入っていないらしい。
 生活保護で暮しているらしい。ドンゴロスみたいな服を着て仕事もできないであろう。

 そのおっさんと先日、偶然に話をする羽目に陥った。
 そのおっさんが玄関に来て、車の掃除か何かをしていた私に話しかけてきたのである。

 そのおっさんは、私の父や母のことを聞いた。
 私の父が「だれやめ」していたかと聞いてきた。私は鹿児島で7年生活していたので「だれやめ」が焼酎の晩酌を意味することを知っていた。

 おっさんの顔を見ると目は丸く、案外可愛い顔をしていることに気がついた。
 おっさんは、私の両親について色々質問して来た。そして私の両親について結構知っていること、関心を持っている事に驚いた。

 話をしてみると私が小さい頃から抱いていたイメージよりも普通の人であることにびっくりした。
 私が小さい時から50年間、そのおっさんが普通に会話ができる人間とは思ってもいなかった。

 日本国憲法第25条は国民の生存権を謳っている。
  1. すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活営む権利を有する。
  2. 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 そのおっさん達兄弟がどういう人生を送ってきたのか、私は知らない。
 しかし、憲法25条が機能していないことだけは確かである。

 就職状況の悪化などで30代の自殺者が増大している。
 ホームレスを見て何とも感じない日本国民や役所。どこかがおかしくなっている。

 小泉や竹中が強調した自己責任だとでも思っているのか。
 自分だけ良ければよいと考えていたら、必ずしっぺ返しを食らうのに。

 小泉や竹中が弱者切り捨ての日本をアメリカ化する政策を推し進めたことは確かである。
 それを日本国民の80%が支持した。マスコミも応援した。

 国民一人ひとりを大切にしない国に未来は無いと思う。

(2009年 5月24日 記)

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